鳥取地方裁判所 昭和41年(ワ)284号 判決 1970年2月16日
原告
鈴木笑子
ほか一名
被告
日特重車輛株式会社
ほか一名
主文
一、被告らは、各自、
原告鈴木笑子に対し金一、〇九六、五五六円及びうち金七一六、二八八円に対する昭和四二年一月一〇日(但し、被告土橋は同年一月八日)以降、うち金一一六、一〇八円に対する昭和四四年三月二二日(但し、被告土橋は同年三月二一日)以降いずれも右完済まで年五分の割合による金員を、
原告鈴木善尊に対し金一〇、二四一円及びこれに対する昭和四二年一月一〇日(但し、被告土橋は同年一月八日)以降右完済まで年五分の割合による金員を、
それぞれ支払え。
二、原告その余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを五分し、その四を被告らの、残余の一を原告らの各負担とする。
四、この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一、申立
(原告ら)
被告らは、各自、原告鈴木笑子に対し金一、七九五、六九六円及びうち金一、三二〇、三六一円に対する昭和四二年一月一〇日(被告土橋は同年一月八日)以降、うち金一四五、一三五円に対する昭和四四年三月二二日(被告土橋は同年三月二一日)以降各完済まで、また、原告鈴木善尊に対し金四三二、八〇二円及びこれに対する昭和四二年一月一〇日(被告土橋は同年一月八日)以降右完済まで、いずれも年五分の割合による金員を支払え。
仮執行の宣言。
第二、主張
(原告ら)
一、原告両名は、昭和四〇年五月二日午后九時頃、原告笑子の夫であり原告善尊の父親である訴外鈴木健一運転の軽四輪自動車(以下原告車という)に同乗して、鳥取市東品治町一六六番地先加藤薬局前路上を鳥取県庁から鳥取駅方面に向け駅前本通り(一九・四メートル、うち車道一〇メートル)を時速三二、三キロメートルで進行していたところ、被告土橋は、その頃、小型四輪乗用車(愛5ま六四五八号、以下被告車という)を運転して、同市吉方町方面から川外大工町通り(幅員五メートル)を通つて駅前本通りに向つて進行し、右両通りの交差点(交通整理は行われていなかつた。以下本件交差点という)にさしかかつたのであるが、かかる場合、同被告は自動車運転者として駅前本通りを右交差点に進入しようとする車両の有無を確め、その状況によつては、随時、停車し得るよう徐行して、危険を未然に防止して安全に運転をなすべき義務があるところ、原告車が右交差点に進入してきたことを確認せず、時速四〇キロメートル余の急速度で、漫然と運転を続けて右徐行を怠つた過失によつて、被告車の前部を原告車の左側面後部車輪付近に激突させて同車を真逆さまに転覆させ、よつて同乗中の原告笑子に対し頭部外傷Ⅲ型(脳挫傷型)、外傷性神経症、環軸性関節亜脱臼兼上下肢躯幹痙性麻痺等の傷害を、原告善尊に対して頭部外傷、切創(前額部)の傷害をそれぞれ与えたものである。
二、被告日特重車輛株式会社(以下被告会社という)は被告車を自己のために運行の用に供するものであつて被告会社の運転者訴外伊藤某が被告土橋に被告車を一時貸与したところ、前記のとおり本件事故が発生するに至つたものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条本文の規定により、また、被告土橋は直接の不法行為者として民法第七〇九条の規定により、各自、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
三、原告笑子の蒙つた損害額は金一、八九五、六九六円である。
(1) 入院治療費 金一一二、五一五円
内訳
イ 金一五、三二四円(四〇、五、四―同、五、一三)
ロ 金八二、五五一円(同、五、二二―同、七、六)
ハ 金九三〇円(同、八、二―同、九、一)
以上鳥取赤十字病院
ニ 金一、九五五円(四一、一、一一―同、一、二八)
ホ 金四、四〇〇円(四二、六、二一―同、六、三〇)
ヘ 金五、二五〇円(同、七、一―同、七、一五)
ト 金九二〇円(同、七、一六―同、七、一九)
チ 金一、一八五円(同、一〇、二一―同、一〇、二八)
以上鳥取県立中央病院
(2) 通院治療費 金六一、四三五円
内訳
イ 金一四、八四九円(四〇、五、三―同、七、二七)
外科鳥取赤十字病院
ロ 金一五、二〇六円(同、五、二一―同、七、二六)
耳鼻眼科同病院
ハ 金二五、五二〇円(四三、一、二二―同、七、一九)
京都加茂川病院まで鳥取、京都間往復汽車賃一一回分(一回金二、三二〇円)
ニ 金四、一八〇円(同期間)
前同往復タクシー代一一回分(一回金三八〇円)
ホ 金一、六八〇円(四三、一、二二以降)
前記病院薬価代一一二日分(一日金一五円)
(3) 病院電気使用料 金一、一五〇円
(昭和四〇年八、九、一〇月分)
鳥取赤十字病院
(4) 入院中付添人費 金二〇、八〇〇円
内訳
金四、二〇〇円(四〇、八、四―同、八、九)
金一、六八〇円(同期間)
訴外山根ふゆの付添料及び食費
金一一、〇〇〇円(四一、一、一三―同、一、二八)
金三、九二〇円(同、一、一五―同、一、二九)
訴外安部ヤスエの付添料及び食費
(5) 家政婦代 金二〇、〇〇〇円(四〇、一〇、一―同、一〇、三〇)
訴外三嶋千代野
(6) 入院中牛乳代 金四、六〇六円
(昭和四〇年六、八、九、一〇月分)
(7) 入院中新聞代 金一、四二〇円
(昭和四〇年六月分―昭和四一年一月分)
(8) 通院ハイヤー代 金一二、〇七〇円
(昭和四〇年八月五日―昭和四一年二月五日)
(9) 雑費 金一、五〇〇円
内容
病院文書料 金一、四〇〇円
病院材料代 金一〇〇円
(10) 逸失利益 金三三〇、〇〇〇円
原告笑子は本件事故当時訴外前河畜産株式会社に経理事務員として給料月額一二、〇〇〇円で勤務していたが、本件事故発生以来入院及び通院治療のためと上下肢躯幹痙性麻痺による四肢の脱力、知覚鈍麻(しびれ感)特に手の握力減退等でペンを持ちそろばんをすることができなくなつたため等とで昭和四〇年五月から昭和四二年九月一五日まで勤務することができなかつたのでその間二七ケ月半の給料計金三三〇、〇〇〇円を逸失した。
(11) 慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円
原告笑子の前記傷害による症状は後遺症として今後も続くものと思われるので、同原告の受けた精神的損害は金一、〇〇〇、〇〇〇円に相当する。
(12) 弁護士費用 金三三〇、二〇〇円
本件においては被告らの執ように抗争して事件は難じゆうはんさの度を加えてきたので原告は権利伸長のために弁護士が必要となつたことは当然である。そこで原告笑子は、昭和四一年一一月二二日、本訴を弁護士訴外下田三子夫に委任するに当り、日本弁護士連合会会規に定める報酬基準の最低基準により、当初の本訴請求額一、九三三、一六三円を目的価額とし、手数料(着手金)を金一六五、〇〇〇、(印紙、切手その他の実費は別)謝金(成功報酬)を金一六五、〇〇〇円とする旨(謝金については、現実には、本判決で容認された金額を基準として支払う約束であつた)を同弁護士と契約し、同年一二月二日、右のうち手数料金一六五、〇〇〇円を同弁護士に支払つた。
四、原告善尊の蒙つた損害額は金五一二、八〇二円である。
(1) 入院治療費 金一二、五八二円(四〇、五、二―同、五、一〇)
鳥取赤十字病院
(2) 付添人寝具借料 金二二〇円(四〇、五、二―同、五、四)
同病院
(3) 慰藉料 金五〇〇、〇〇〇円
原告善尊は事故当時小学校三年生であつて、右入院治療を受けたが、前額部に幅五ミリ、長さ七センチメートルの目立つた傷痕が残り、同原告はこれを苦にして学業成績も低下し、昭和四一年一二月二三日、右傷痕の整形手術を受けたが、なお前額部上に幅一・五ミリメートル、長さ四四ミリメートルの瘢痕を残し、その醜状を苦にしているところであつて、その受けた精神的損害は金五〇〇、〇〇〇円に相当する。
五、原告笑子は、昭和四二年七月六日、本件負傷による治療関係費用として自動車損害賠償保障法による保険金(以下保険金という)一〇〇、〇〇〇円を受領したので、前記三項の同原告の損害額は金一、七九五、六九六円となるので被告両名に対し、各自、右金員及びうち金一、三二〇、三六一円(三項のうち(1)イ乃至ニ、(2)イ、ロ、(3)乃至(9)、(10)のうち昭和四〇年五月以降昭和四一年一二月までの分、金二二八、〇〇〇円、(11)の計金一、四二〇、三六一円から前記金一〇〇、〇〇〇円を控除した残額)に対する本訴状送達の翌日である昭和四二年一月一〇日(但し、被告土橋については同年一月八日)以降右完済まで、うち金一四五、一三五円(三項のうち(1)ホ乃至チ、(2)ハ乃至ホ、(10)のうち昭和四二年一月一日以降同年九月一五日までの分、金一〇二、〇〇〇円の合計額)に対する右金員請求趣旨変更(追加的)申立書送達の翌日である昭和四四年三月二二日(但し、被告土橋については同年三月二一日)以降右完済までいずれも年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
六、原告善尊は、昭和四二年七月六日、本件負傷による保険金八〇、〇〇〇円を受領したので前記四項の同原告の損害額は金四三二、八〇二円となるので、被告両名に対し、各自、右金員及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四二年一月一〇日(但し、被告土橋については同年一月八日)以降右完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
七、被告会社主張(二)、(三)項の事実及び被告土橋主張(二)、(五)項の事実を否認する。
(被告会社)
(一) 原告ら主張一項中、原告両名が鈴木健一運転の原告車に同乗して、その主張日時、主張場所を進行していたこと、原告車と被告車が衝突したことはこれを認めるが、被告土橋が過失によつて被告車を原告車の左側面後部車輪付近に激突させ、同車を真逆さまに転覆させたことはこれを争う。
(二) 同二項のうち、被告会社が被告車を所有することはこれを認めるが、本件事故が被告車を被告会社のために運行の用に供していて発生したこと、伊藤克之が被告土橋に右車を一時貸与したことはこれを争う。
被告会社は、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していたものではない。被告会社の従業員伊藤克之は被告会社から被告車の移送を命ぜられ、本件事故当日、被告土橋が稼働している飲食店に立寄り夕食中、同被告から被告車の貸与方を頼まれこれに応じたものであつて、右伊藤はもともと被告車を他に貸与する権限を有していなかつたものである。本件事故は、かかる伊藤から被告車を借受けた被告土橋の運転中に発生したものであつて被告会社としては右事故について責任はない。
(三) 仮に被告会社に自賠法三条による自動車運行者としての損害賠償責任があるとしても、被告土橋は本件交差点に進入するに際し一旦停止し、その安全を確認してから交差点に進入しており過失はない。かえつて原告車の運転者である鈴木健一が右交差点の相当手前で被告車のライトを漠然と認識したが漫然と同一速度で進行し、交差点直前にきて被告車がすでに交差点に進入しているのを発見しながら、被告車の前方を通過し得るものと軽信して、なお、速度を増して、やゝ右にハンドルを切つただけで交差点に突入したことによつて本件事故が発生したのであつて、右は鈴木健一の前方注視義務違反とスピード違反によるものというべく被告らに損害賠償義務はなく、仮にあるとしてもその額は大幅に減額されるべきである。その外、被告土橋の主張のとおりである。
(四) 同三、四項の事実を争う。原告笑子の入院治療費等は同原告の治療態度にも原因するところが多く、付添人の食事、新聞代等については本件事故の傷害と因果関係がなく、また、同原告はその勤務先から、従来、または将来の勤務に関係した給付を毎月幾ばくか受けているので、これは、当然、逸失利益の損害金から控除されるべきである。なお、被告会社は本訴提起まで原告らより本件事故を知らされなかつたので本訴提起前の弁護士費用の請求は失当である。つぎに原告善尊は、男児として、殊更に劣等感の原因となる傷痕をもつものとは認められない。
(五) 同五、六項中、原告らがその主張日時に主張のとおり保険金を受領したこと、同五項中、原告らの請求の趣旨変更申立書がその主張日時に被告会社に送達されたことはいずれもこれを認める。
(六) 被告土橋主張(五)のとおりである。
(被告土橋)
(一) 原告の主張一項中、原告両名が鈴木健一運転の原告車に同乗してその主張日時、主張場所を進行してきたこと(但し、速度の点は不知)、被告土橋が、その頃、原告主張方向を進行したこと、原告車の左側面後部車輪付近と被告車の前部が接触したことはこれを認めるが、右接触が被告土橋の過失によるものであることはこれを否認する。原告らの負傷の部位、程度は不知。
(二) 被告土橋は本件交差点において一時停止し、左右を確認した上徐行して駅前本通りに進行した瞬間、右側の若桜橋方向から四〇キロメートル以上の猛スピードで原告車が被告車の前方をカーブしながら通り抜けようとこころみて前記のとおり両車両が接触した。原告車の鈴木健一は前方を注視し適切な運転を行えば被告車との衝突前に停止し得るだけの充分な距離があつたのに、これを怠り、しかも被告車を認めながらブレーキをふみ誤つてアクセルをふみ、すでに中央線付近に進出している被告車の前方を擦り抜けようとしたものであり、本件事故は同人のかかる重大な過失によつて生じたものであつて、原告車の自損行為にすぎない。仮に被告土橋に過失ありとしても、鈴木健一の過失の方がより重大であつて過失相殺されるべきである。
(三) 同二項中、被告土橋が被告会社運転者伊藤某より被告車を借用したことはこれを認めるが、その余の事実を否認する。
(四) 同三、四項の事実は不知。
(五) 本件事故直後、被告土橋は鈴木健一を原告らの代理人として同人との間で、原告車の修理費として被告土橋が金七〇、〇〇〇円を支払うことにより一切解決する旨示談した。
第三、証拠〔略〕
理由
一、原告両名が鈴木健一運転の原告車に同乗して原告ら主張日時、その主張場所を通行していたこと、原告車と被告車が原告ら主張の本件交差点において衝突したことは当事者間に争がなく、〔証拠略〕によれば、鈴木健一は本件事故直前、時速約三二・三キロメートルで駅前本通り(車道幅員一〇メートル、両側の人道各幅員四・七メートル)を進行し本件交差点一〇乃至一五メートル手前で、川外大工町より日進小学校へ通ずる道路(幅員五メートル)沿いの南側の建物の壁が接近する車の前照灯の光で明るくなつているのを認め、さらに右交差点約三メートル手前で、本件交差点に接近する被告車の姿を発見し、一度は徐行しかけたが、むしろその前方を通過しようとしてもとの速度に復して進行を続けたこと、被告土橋は時速二〇乃至三〇キロメートルで被告車を運転して本件交差点付近にさしかかり、駅前本通り東側人道の東端の線の近くで、一旦、停止し、駅前本通りの右方向(北方向)の交通を確認しようとしたが、右交差点東北隅にあるアーケード及び建物の角に遮られて見通しは充分でなく、つぎに左方向(南方向)の交通を確認して人車の通行のないことを確めただけで時速約一〇乃至二〇キロメートルで発進して右交差点を横断しようとしたとき右方向(北方向)から接近してくる原告車の前照灯の光に気付き、急停車の措置をとつたが及ばず、被告車の前方を右から左(北から南)に通過しようとする原告車の左側面後部車輪付近に被告車の前部を衝突させ(原告らと被告土橋の間では右衝突の部位は争ない)、原告車は右衝突地点よりほゞその進行方向に沿つて約四メートルさきに真逆さまになつて転覆し、被告車はほゞ右衝突地点付近に停止したこと、被告車の前方ナンバープレートに横に擦過痕が残つたこと、原告車に同乗中の原告らがその主張のような傷害の外、原告笑子は第二頸椎骨折、外傷性頸髄症の傷害を蒙つたことが認められる。〔証拠略〕中被告車が交差点で停止しないでその進行道路から四〇キロメートル以上の速度で駅前本通りを横断しようとした旨の供述及び供述記載は〔証拠略〕や前記認定の事故後の原告車の状態に徴して容易に信じられない。他に右認定に反する証拠はない。右認定によれば被告土橋は本件交差点に進入するに当つては駅前本通りの車両の状況を充分確認して、他の車両と接触することのないように安全に被告車を運転して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務あるものというべきところ、駅前本通りを北方向より南方向に進行する車両の状況を充分確認することを怠り、運転をしたことにより本件事故を発生させるに至つたものということができるから被告土橋は右事故によつて生じた損害について賠償の責任を免れることはできない。
二、つぎに、被告会社が被告車を所有するものであることは原告と被告会社との間では争がなく、〔証拠略〕によれば、被告会社の運転者である伊藤克之が被告車を回送中かねて知り合いの被告土橋の稼働先に立寄り、車の話をするうち、被告土橋は右伊藤からしばらくこれを借受けて試乗してみることとなり、すぐ復帰する予定で車中に被告会社の荷物を積んだまま、右伊藤から車の鍵を受取り、これが運転を始めて間もなく本件事故を惹起したことが認められ、〔証拠略〕中一部右認定に反する供述は容易に信じられない。他に右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば本件事故にあつては被告会社の被告車に対する一般的な運行支配が失われていたものとはいまだいうことができないので被告会社は被告車の運行について責任を免れることはできない。
三、そこで、原告らが本件事故によつて蒙つた損害について考えてみるに〔証拠略〕によれば原告ら主張三項(但し、うち(11)を除く。うち(7)の新聞は付添人のためのものである)、四項(但し、うち(3)を除く)の事実及び原告善尊は、昭和四一年一二月二三日、その傷痕の整形手術を受けたがなお前額部上に幅一・五ミリメートル、長さ四四ミリメートルの瘢痕を残していること、原告笑子は前記のとおり入院を繰返し、一時は、呼吸まひ、仮死状態に苦しみ、現在はやゝ小康を保つているが一週間に四、五日は就床することもあり完全に回復する見とおしは今のところ明らかでないことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。右認定によれば原告らの蒙つた損害はいずれも本件事故と相当因果関係あるものということができ、そのうち精神的損害は前記諸般の事情を斟酌して(但し、後に認定する原告側の過失相殺の点を除く)原告笑子において金六〇〇、〇〇〇円、原告善尊において金一〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
四、被告らは本件事故による損害については被告土橋と原告らの代理人鈴木健一との間で示談解決済みである旨主張し、被告土橋本人尋問の結果中には右主張に副う供述部分があるが、右は証人鈴木健一の証言と対比して容易に信じられないし、他に右主張事実を認定し得る証拠はない。よつてこの点に関する被告らの主張は採用しない。
五、ところで前記認定の本件事故の態様にかんがみるとき、原告車を運転していた鈴木健一においても被告車の接近の確認とこれとの接触回避の点において欠くるところなしとはいえず、鈴木健一が原告笑子の夫であり、また、原告善尊の父親であつて生活を共同にしていることは弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、右健一の本件事故における右運転上の過失はこれを被害者である原告側のそれとして原告らの損害を算定する上において過失相殺として斟酌することとし、その割合を二〇パーセントとするをもつて相当と解する。そうだとすれば、原告笑子の前記認定の損害である、計数上明らかな計金一、四九五、六九六円(本件記録によれば右損害中、同原告が本件訴状で当初から請求した分にかかるものは原告ら主張三項のうち(1)イ乃至ニ、(2)イ、ロ、(3)乃至(9)、(10)のうち昭和四〇年五月以降昭和四一年一二月までの分、金二二八、〇〇〇円、(11)の慰藉料金六〇〇、〇〇〇円の計金一、〇二〇、三六一円―以下(イ)の額という―であり、その後請求の趣旨変更申立書で請求した分にかかるものは原告ら主張三項のうち(1)ホ乃至チ、(2)ハ乃至ホ、(10)のうち、昭和四二年一月一日以降同年九月一五日までの分、金一〇二、〇〇〇円計金一四五、一三五円―以下(ロ)の額という―であり残余が原告ら主張三項のうち(12)、弁護士費用である)の八〇パーセントに相当する金一、一九六、五五六円(うち右(イ)の額に相当する分は金八一六、二八八円、右(ロ)の額に相当する分は金一一六、一〇八円)、また、原告善尊の前記認定の損害である、計数上明らかな計金一一二、八〇二円の八〇パーセントに相当する金九〇、二四一円が被告らにおいて原告らに対し賠償すべき原告らの損害である。
六、ところが、原告らはその主張五、六項において主張するとおり各保険金を受領したことを自認しているので、被告らは各自、前項認定の損害額のうちから右保険金額を控除した残額である原告笑子の損害金一、〇九六、五五六円(右保険金は弁論の全趣旨によつて前記(イ)の額に充当されたものと認められるので(イ)の額は金七一六、二八八円、(ロ)の額は金一一六、一〇八円)及びうち右(イ)の額金七一六、二八八円に対する、本件事故後であつて本件訴状送達の翌日である(本件記録によつて明らかな)昭和四二年一月一〇日(但し、被告土橋については同年一月八日)以降右完済まで、うち右(ロ)の額金一一六、一〇八円に対する、本件事故後であつて本件請求の趣旨変更申立書送達の翌日である(原告と被告会社との間では争ない)昭和四四年三月二二日(但し、被告土橋については本件記録に徴し明らかな同年三月二一日)以降右完済まで、また、原告善尊の損害金一〇、二四一円及びこれに対する前記昭和四二年一月一〇日(但し、被告土橋については前記同年一月八日)以降右完済までいずれも年五分の割合による遅延損害金の支払義務あるものといわなければならない。そこで原告らの本訴請求を右の限度で認容し、その余の部分を棄却することとし、民事訴訟法第九二条、第九三条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中村捷三)